人文学と法学、それとアニメーション。

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2023-01-01から1年間の記事一覧

どん底の2023年日本にあらまほしきEpicureanism!──ヴィム・ヴェンダース『PERFECT DAYS』評註

ヴィム・ヴェンダース『PERFECT DAYS』は、2023年東京の無口で独身高齢の清掃作業員・ヒラヤマ(役所広司)の日々の暮らしをドキュメンタリー風に撮影した作品である。 描写の細やかさ、あるは些細な日常性(everyday communism)は、『リズと青い鳥』や『花と…

空気の支配──成田洋一監督『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』覚書

福原遥自体比較的好きな女優であるし、あの特攻出撃前夜のツルさんの食堂での明るさと表裏の緊張感や、松坂慶子の「おめでとうございます」、千代ちゃんと石丸の関係、「日本は負ける」に怒鳴り散らす警察官の威圧的雰囲気、空襲の怖さ、ラストの博物館のシ…

見守るという教育──『窓際のトットちゃん』覚書

公開初日(12月8日)に観てきました〜。 原作は黒柳徹子の自伝的小説。 宮崎駿『君たちはどう生きるか』同様、あの世代が2023年の今、自伝的作品を出すと、それは必然的に太平洋戦争に触れざるを得ない結果、岸田文雄・自民党政権が進める軍拡を批判する潜在力…

切れない過去、日本という病──『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』評註

すぐれたフィクション作品は、その時代背景──文脈(ケンブリッジ学派?)を超えて、普遍的射程を持ちうる。 『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』は、2023年日本の現状、どん詰まりという文脈がなければ描かれなかったであろうが、他方でその射程は非常に長く、普遍性を…

人間生まれたときからすーべて遊びだわ!──北野武『首』覚書

とにかく派手に首が飛ぶし、きちんと斬首を描くし、首を取られた後の死体・傷口や、斬られた後の首も映す。 生のむなしさ、あっけなさーーニヒリズムが主題かしらね… 家康の無限影武者編含め主人公格の関係当事者ほとんどが散る暴力と欺瞞裏切りの応酬。そこ…

1枚目は何か?──『ドミノ』覚書

ヒプノティック──超高度な洗脳術により、他人を操ることができる能力。 最初の世界は、主人公がその力で構築した非現実世界であり、刑事たる自分の娘を、機関から守るために誘拐したのは、なんと自分自身であったのだった。 ヒプノティックによる世界構築が…

あるいは令和のソフォクレスか、溝口か────『正欲』評註

岸善幸は令和日本のソフォクレス、あるいは溝口健二か。 いやはや恐れ入った。 こういう映画を見るために、生きているみたいなところがある。 今年の邦画だと、淺雄望『ミューズは溺れない』。あるいは是枝裕和『怪物』。 アニメだと宮崎駿『君たちはどう生…

ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず──『駒田蒸留所へようこそ』覚書

回転する独楽が静止したように見える状態≒ちはやふる、だ!(最近アニメ『ちはやふる』3期まで一気に見た。笑) 主題系はタイトルにも引いた「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」(鴨長明『方丈記』)であろう。「独楽は家族のお酒」という、駒…

自身への赦し──『ゴジラ-1.0』覚書

自分は、過去に罪を犯したから、楽しく生きてはいけない人間だという暗示に、人はかかることがある。 神風特攻隊として散らなかったことも、島でゴジラに発砲できなかったことも、本来、敷島が責任を負うべき事柄ではなかった。が、気にしてしまったのならば…

お金では買えないものを買うために、あるいは百貨店のその先に──『北極百貨店のコンシェルジュさん』評註

『北極百貨店のコンシェルジュさん』、観てきました。 百貨店のコンシェルジュって、消費資本主義の象徴たる百貨店のコンシェルジュ≒コンサル?的なイメージで、観る前はとても悪い印象であった。絶滅種を含む様々な動物たちにしても、今街中でスーツのおじ…

神は人をひとところにとどめることもある──岡田麿里監督『アリスとテレスのまぼろし工場』評註

公開初日、9月15日(金)に観てきました。 海に面した製鉄所のある見伏町の中学3年生・菊入正宗は、同級生の笹倉大輔・新田篤史・仙波康成らと、受験勉強中のある年の12月、製鉄所で起きた大規模な爆発事故の日から、空間的にも、時間的にも閉鎖された見伏町に…

法廷という滑稽──『サントメール』評註

本作は主として法廷劇として進行する。 フランスのサントメールで起きた、15ヵ月の自分の娘を海岸に放置して溺死させた、セネガルからの留学生による殺人被疑事件。その裁判を、女性作家・ラマが傍聴していた。放置=殺害行為自体は認めるものの、「呪い」の…

枠の外──『アステロイド・シティ』評註

ウェス・アンダーソン監督作品は、『フレンチ・ディスパッチ』もはじめ、一作品も見ていない。本作が、私が初めて触れたウェス・アンダーソン監督作品である。 *** 冒頭で、『アステロイド・シティ』は、劇中現実での演劇であることが、舞台の外の語り手…

次のジェノサイドを食い止めるために──『福田村事件』評註

ちょくちょく謎の説明をし始め、また正論を演説しはじめる登場人物たちはまぁアレなのだけど、朝鮮人虐殺に至るメカニズム、特に背景にあった新聞の役回り(震災前から犯人不詳の凶悪犯罪については内務省からの要請で「不逞鮮人の仕業か?」などと記載して…

責任の所在は……──『CLOSEクロース』覚書

是枝裕和監督『怪物』と同じテーマをやろうとしているように思った。子供ゆえにまだ明確にできない、名付けられる前の感情の話。 ただ、あのラミのレミへの態度をもって、もちろんああいうこの結果を背負わせるのは酷な気がする…… 新しい学校でからかわれた…

フィクションと戦争──宮崎駿『君たちはどう生きるか』まとめ

※以下は宮崎駿『君たちはどう生きるか』について書いた3つの文章をまとめたものである。 ①「再生産と縮小──『君たちはどう生きるか』覚書」 hukuroulaw.hatenablog.com ②「フィクションと媒介性──宮崎駿監督『君たちはどう生きるか』評註」 hukuroulaw.hate…

テレパシーの条件は、公水さながらの透明さ?──『サンドランド』

私自身、鳥山明ファンでもないし、『ドラゴンボール』もあまり履修していない。他方で、しょうもないことを自慢し「どうだ、かなりのワルだろ?」と言ってる1周回った感のあるちびあくまも鼻につく。旬のとうに過ぎた杉ちゃんかよ(!?)。夏なのに寒い(!!)…

人間はフィクションを作りフィクションに助けられて人生の荒波を進む──『バービー(Barbie)』評註

今、松濤美術館で「私たちは何者?ボーダレス・ドールズ」展をやっている。 (行ってないので文章を繋げられない!笑) 『バービー』は、人形というものをとおして人間というものを顧みるお話であり、「男社会」も「バービー」も人間が過酷さに打ち勝つため…

「社会」あるいは「政治」の欠落──『しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 ~とべとべ手巻き寿司~』評註

ミクロレベルについては、「一人でも誰かが味方でいてくれること」が、社会から切れない、人生をあきらめないためには必要であるという指摘は適切である。 また、観客へのメッセージとしても、むしろ非理谷ではなくしんちゃんの側、「最後の一人」を見捨てな…

ちょっとクドいし演技もイマイチ──『リバー、流れないでよ』覚書

貴船の旅館の迷路的ギミックとカメラワーク、こじんまりとした話のまとまり(と時間的閉鎖が空間的閉鎖感とリンクしており、ラストの空間的開放感につながる点)、「車のエンジンが壊れてしまい…」が真相だったというオチ、時間を止めて留まりたいという欲求(…

親への真の恩返しとは?──『マイ・エレメント』評註

本作には大きく二つの物語の筋がある。 一つはエンバーとウェイドの恋物語。 もう一つはエンバーと両親(ないし父)の親子の物語。 そして、そこには移民二世として、移民一世の父が始めた移民街の雑貨屋の跡継ぎとして育てられた一人娘と、当初からの住民であ…

空元気──『特別編 響け! ユーフォニアム ~アンサンブルコンテスト~』

チューニングOK! …ではない。 しかし、空元気でも元気(な様子)を見せないといけないときもある。 そこから始まる本作は、さながら放火殺人事件から4年で、完全新作として本作を出す京都アニメーションである。 もちろん、嬉しい。 3年の南中カルテットや1年…

無邪気ゆえの残虐さ──『イノセンツ』覚書

いやー、イノセンツ、観てきましたよ。。 子供は残虐である。 たとえば興味関心から、オタマジャクシを太陽照りつける灼熱の水門金属部に放置したり、バッタを紐で縛り付けて生きたままアリの巣の上に置いたりする。 (実体験です…) 物体移動やテレパシーとい…

『テノール!人生はハーモニー』覚書

主人公・アントワーヌ・ゼルカウィは移民?の子か。 兄貴の違法格闘の金を学費にし、生活費は寿司屋のバイトで稼いでいる。 不良?の若者たちが幼なじみであり、界隈の家族同然である。 敵対勢力とのラップバトルもする。 しかし、ある日、寿司の配達バイト…

「アオサギ又はサギ男」についての覚書:『The boy and the Fiction』──宮崎駿監督『君たちはどう生きるか』評註

一切の宣伝なし、劇場パンフレット販売もなしという異例の状況下で公開が続く『君たちはどう生きるか』は、「難しい」「よくわからない」はては「宮崎駿の走馬灯だから意味不明で正解なんだ」という見解まで出てくる状況である。 しかし、特に『ハウルの動く…

フィクションと媒介性──宮崎駿監督『君たちはどう生きるか』評註

『君たちはどう生きるか』冒頭の火災はただの火災で空襲ではない。しかし、何のメタファー(暗喩)かと言えば、劇中にここぞとばかりに描かれる日中戦争そして太平洋戦争時の日本国内の様子(徴兵者の町内挙っての見送り、戦車パレード、軍需産業の活況、おばあ…

再生産と縮小──『君たちはどう生きるか』覚書

冒頭。 戦後70年を過ぎ、再度軍拡を進める岸田政権への批判として、いわば宮崎駿自身の戦後世代の責任・総括として、東京大空襲の話から入るんかと思ったが、なんなんだコレは…… (そういや宮崎駿が復帰して本作作り始めたときのドキュメンタリーで昭和の木造…

小さくてもできること──『マルセル 靴をはいた小さな貝』覚書

まぁとにかくキュートですよね、マルセルと家族たち。笑 あと、特にマルセルは体が小さいくせに、しかも人間たる動画作成者に対してウィットに富んだジョークを連発し、ときに深いことを言う。それでいてウソは言わない。これはウケますわ。笑笑 モーツァル…

Epicureanたちの祝宴──『交換ウソ日記』評註

タイトルが絶妙にダサい。笑 とはいえ、ウソが本当になる話はめちゃくちゃ好き。 また、手書きの手紙や交換日記で互いを徐々に知っていくという、今は失われてしまったロストテクノロジーが、スマホのSNSアプリラインと同時並行で登場するのは本当によい・・…

かつての私にさよならを──『青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ない』覚書

18歳でまわりの「みんな」の反対を押し切って、卯月を産んだ卯月の母。これはもし「みんな」の意見に従っていたら、卯月は存在していなかったことを意味する。「だから、あなたの幸せは、「みんな」が決めるべきことじゃないの。」これは説得力がある。 青ブ…