人文学と法学、それとアニメーション。

人文学と法学、それとアニメーション。

2020-01-01から1年間の記事一覧

かからない「虹」の謎――『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』第13話「みんなの夢を叶える場所」覚書

1.問いと答え 本稿では疑問を1点に絞る。――雨が降り、雨が上がったのに、描かれない「虹」である。 私は、第13話で雨が降り出した段階で、「どうせすぐ晴れて、虹がかかってラストステージやろ。わら」という予想をしていたが、この予想は見事に外れた。 そ…

手を伸ばす勇気――『ジョゼと虎と魚たち』覚書

大学生でたくさんのクラリオンエンゼルフィッシュをその目で見ることを夢見る恒夫は、ある日、ものすごいスピードで坂道を下ってきた車椅子の少女・ジョゼを偶然助け、ジョゼの祖母・チヅから「バイト」を持ちかけられる。――それは、ジョゼのお願いを聞くこ…

計算された「完璧」の気持ち悪さ――『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』第12話「花ひらく想い」覚書

第11話のラスト、侑が自分から離れて行ってしまうことの恐怖(もっとも、これは第12話を見た今となっては、それだけではなく、自分自身も変わりつつあり、その変化の結果、自分自身が侑を必要としなくなる可能性からくる恐怖も込みであったとわかる)から、…

フィクションと現実のパラレリズム――それを理解してしまったら、そのようにせざるを得ませんね――

私は、遺族や京都アニメーション関係者、あるいは他のファンが、青葉の死刑や、さら現行法による絞首刑よりも残虐な方法での青葉の殺害を望むこと自体は異常なことだとは思わないし、むしろ自然な反応だとさえ思う。私がここで述べていることが絶対的に正し…

「みんなちがってみんないい」世界における「特別」な関係――『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』第11話「みんなの夢、私の夢」覚書

『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』第11話。 歩夢の侑に対する感情が、ついに爆発した回。 パスカードケースや標識やスマホについての演出的意味についてはもうすでに多くの考察が出ており、ここで論じる必要はない。 ここで指摘しておきたい…

フィクションの反転――『100万の命の上に俺は立っている』第11話覚書

第11話はなぜか『ふたりはマジハナイト』というアニメのアバンとOPから話が始まる。 『100万の命の上に俺は立っている』が打ち切られたのかと思った。笑 タネ明かしは時舘由香が幼少期から憧れていたアニメで、時舘がゲーム世界の雪中で見た夢である。 現実…

本物の関係の成立条件――『安達としまむら』第10話「桜と春と 春と月と」覚書

周囲の人間に興味がなく、2年生に進級しできた友達モドキやさらには樽見の会話すら頭に入ってこず、そのことについて自身を「薄情」と形容し、樽見と別れたあとに、自分は何者かと悩むしまむら。 そのしまむらをそのまま肯定するのが宇宙=社会共同体のハイパ…

自由に切り貼りできるコンテクストの説得力の無さーー『Fate Grand Order 神聖円卓領域キャメロット 前編』覚書

ソシャゲとして進める分には面白いのだろうけど、拡散してしまう群像劇と各サーヴァントならびに藤丸の動機の薄さ更には旅人感の全てが絡み合い致命的に物語を盛り下げている。 またこれはFateシリーズ全般に言えるが、コンテクストから切りはなして勝手気ま…

すぱんくtheはにー「最強の世界は、忘却の果てに」感想と疑問――アニクリ4s  

すぱんくtheはにー「最強の世界は、忘却の果てに」感想と疑問――アニクリ4s 1 問い すぱんく氏の論稿は、 「『ラブライブ!サンシャイン!!』の高海千歌が西浦みかんをアピールするポスターで、《もし、仮に》スカートが透けて下着が見えていても、それを強制…

善いことと悪いことーー『羅小黒戦記』覚書

対立関係にある人間と妖精の中にも穏健派から過激派まで思想の側面一つとっても様々な人間、妖精がいる、ことを前提に、最初過激派(フーシー一派)に拾われた子供妖精シャオヘイが敵たる人間(かつ妖精の穏健派と組む)ムゲンと行動を共にしているうちに価値観…

神話化と再演の映像化――『魔女見習いをさがして』覚書

『魔女見習いをさがして』、かつて『おジャ魔女どれみ』を見ていた3人の女性(ソラ、ミレ、レイカ)が、本家=『おジャ魔女どれみ』を共通の模範パラデイクマ(つまりは未加工の「神話」)としてそれに適宜批判などを加え、再解釈等を施しつつ、「あるべき生…

最後の一人を守ること、後ろに繋ぐこと、noblesse oblige――『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』評註  

公開2日目にして興行収入23億円という破竹の勢いを示す、同名タイトルのTV版の続編。 本作は人を食べる基本的には不死身の鬼たちとそれに対峙する人間、中でも鬼狩りである「鬼殺隊」との戦いを描く物語である。 舞台は無限列車に移り、炎柱・煉獄杏寿郎とい…

名前と媒介性――『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 永遠と自動手記人形』評註――

0、三つ葉の結び目 本作はフィクションであるから、イザベラがヴァイオレットと「牢獄[1]」たる女学校(さらにはそこに放り込んだヨークの父)から逃亡し、テイラーに会いに行き二人で暮らす、というシナリオだって作ろうと思えば作れる。しかし、それはで…

想いの系譜――『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』評註 その1

1 はじめに 既に鑑賞した者にとっては直ちに理解可能であろうし、そうでない者にとっても容易に推認可能であろうが、140分という長時間、かつ細かい描写を得意とする京都アニメーションの、フルスケールで、しかも事件後初の本格作品でありスタッフの思いが…

「承認」の位相――「かけがえのなさ」を巡る憲法と『クズの本懐』の管轄領域

1 はじめに 横槍メンゴ『クズの本懐』(スクウェア・エニックス、2013‐2018年)[1]の著名なセリフに、こんなセリフがある。 私たちは、付き合っている。 でも、お互いがお互いの、かけがえのある恋人。 (アニメ版PV) https://www.youtube.com/watch?v=iNB…

昆布をアプリオリに優先すること――『空の青さを知る人よ』評註

※以下の叙述においては、現在の慎之助を「慎之助」、現在の御堂に現れた13年前の慎之助を「しんの」と表記する。 1 主題は何か? 多くの鑑賞者から異論が出ることを承知で言い切る。 長井龍雪、岡田麿里、田中将賀が三度集う。『あの花』『ここさけ』に続く…

限界まで研ぎ澄ますということ――木村草太『平等なき平等条項論』評註

本稿は、木村草太『平等なき平等条項論 equal protection条項と憲法14条1項』(東京大学出版会、2008年)の短い書評である。 1 本文(3-212頁)について 日本国憲法14条1項の解釈をアメリカ判例法理を手懸りに提示する力作で、内容・結論ともに非常に説得的…

令和元年日本のマニフェスト――『天気の子』評註

0 はじめに 忘却、象徴、祈りと解釈学 本作は現代の日本を舞台とするフィクションであるのみならず、現実の日本の裏面を画面に克明に記録するとともに、象徴天皇制を持つ日本に内在する制度的強制/忘却を如実に示している。 これは牽強付会として一蹴でき…

どこからでもはじめられる――『リトルウィッチアカデミア』評註

「信じる心があなたの魔法」(シャリオ) この言葉は、権力と権威を手に入れようとしたクロワに、シャイニーロッドが微笑まず、シャリオとアッコを持ち主に選んだその理由でもある。政治的決定をなす言葉では実益は手に入れられないし、実益を求めてはならない…

(憲)法学における通貨政策の位置づけ――片桐直人「憲法と通貨・中央銀行法制に関する一考察(一)(二)・完」法学論叢158巻1号94頁以下、3号111頁以下

片桐直人は我が国の(憲)法学における「通貨」の位置づけ及びその政策の憲法的統制について初めて手をつけ、そして現在もおそらく一人で走っている憲法学者である。[1] その我が国における「憲法における通貨」論のはしりをなすのが本論文であり、これは我…

大串兎代夫『天皇機関説を論ず』(邦人社、1935)と大日本帝国憲法1条4条31条の解釈

邦人主義綱領 一、我等ハ邦人一如ノ原理ニ則リ新日本文化ノ建設ヲ期ス 一、我等ハ新日本文化ヲ中外ニ顕揚シ以テ世界文化ニ貢献センコトヲ期ス 一、我等ハ各々ソノ職ニ順ヒソノ分ニ應シ邦人主義ノ実現ヲ期ス (大串兎代夫『天皇機関説を論ず』(邦人社、1935…

メタ倫理学者はいらない?――『PSYCHO-PASS 3 FIRST INSPECTOR』評註

本作は『PSYCHO-PASS』シリーズの主題からは少々離れた話、ということでいいのだろう。 (もちろん朱が推薦するだけあって灼は主題を捉える。すなわち、TV版『PSYCHO-PASS3』でも同じ台詞が出てきたが、ドミネーターの唯一好きなところは、引き金がついてい…

What's the Real,What's the Problem?――村木数鷹「マキァヴェッリの歴史叙述」国家学会雑誌132巻9・10号(2019)103頁以下についての覚書

村木数鷹「マキァヴェッリの歴史叙述」国家学会雑誌132巻9・10号(2019)103頁以下は我が国の、そして世界のマキァヴェッリ研究の水準を大きく更新した、画期的な(修士!)論文ということになると考えられる。 (もちろん本稿筆者は政治思想史も歴史学もイ…

続・読んでいない論文について堂々と語る方法?―岡野誠樹「憲法-訴訟-法――違憲審査と訴訟構造の交錯――」国家学会雑誌133巻1・2号69頁以下

1 バイヤールの真意 本記事のタイトルは無論、ピエール・バイヤール〔大浦康介訳〕『読んでいない本について堂々と語る方法』(筑摩書房、2008)からである。 バイヤールの主張は(明示はされていないものの)実は大きく2つに分けられるように思われる。 ①…

読んでいない論文について堂々と語る方法?―岡野誠樹「憲法-訴訟-法――違憲審査と訴訟構造の交錯――」国家学会雑誌133巻1・2号69頁以下

岡野誠樹「憲法-訴訟-法――違憲審査と訴訟構造の交錯――」国家学会雑誌133巻1・2号69頁以下は、読むまでもなく我が国の憲法学界に一ページを刻むことが約束された論文であり、そのうち加筆の上出版もされるであろう。 だから、そのうち読むことになる(嫌々で…

「自粛要請」の位相

1 「自粛要請」の日本社会――日本社会の平常運転 2020年2月頃から開始した今般のコロナ禍とそれに対する政府(日本国及び各都道府県含む)対応の際に「自粛要請」なる珍妙な言葉が繰り返し発出されている。 「外出しないよう要請」なら理解できる。しかし、…

In iureによるauctoritasの遮断――『ぼくらの7日間戦争』(2019)評註

本作には原作小説『ぼくらの七日間戦争』(宗田理、1985年)とそれをもとにした実写映画(菅原比呂志監督、1988年)があり、その上にこのアニメーション映画(村野佑太監督、2019年。以下「本作品」とする。)が存在している。 であれば、本作のテクストを正…

信用なき日本社会で「跳ぶ」こと――『劇場版SHIROBAKO』評註

1 問題の背景 TVアニメ版『SHIROBAKO』及び『劇場版SHIROBAKO』はアニメーション制作会社、武蔵野アニメーションの進行スタッフ・宮森あおいを主人公とする、アニメーション製作過程における人間関係を描くアニメーションである。そのことから直ちに、「ア…