人文学と法学、それとアニメーション。

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2022-01-01から1年間の記事一覧

信頼とは何か──『劇場版 転生したらスライムだった件 紅蓮の絆編』覚書

主従関係3つの比較と、人外としては等価である悪魔と天使の反転、さらにラストの自己犠牲を自己犠牲でもって救うがそもそも最初の犠牲を強いた起点の悪魔(まぁウルティマが今回のデウスエクスマキナなのだろう)が「少し多めの」御礼として元凶を手元に回収し…

男性性批判?──『MEN 同じ顔の男たち』覚書

いや、特にラストの連続出産シーンは厳しいものがあった。早く終われ、と。苦笑 最初のトンネルの「は」〜反響のところ、さらにその後向こうから追いかけてくるところの不気味さはよかった。 廃村に裸で立っていたところも。 ほとんど何も読み取れなかったが…

とっちらかってる──『かがみの孤城』覚書

高山みなみ(マサムネ)は草。コナンっぽい喋り方よな、からの自供。笑 あと、傘木希美かと思ったよね。笑 *** こころが学校に行けなくなった集団での自宅包囲の話やそれを母に言えなかったこと、アキとフウカには言えて泣いたこと、そのあと母にも話せたこ…

見守るということ──『THE FIRST SLAM DUNK』覚書

父に続き長兄ソータをも失った宮城家の、特に母とリョータの視点からの再構成?といってよいのか。 いや、『スラムダンク』原作未履修なのでよく知らないのだが、桜木花道が主人公で、「安西先生、バスケがしたいです」「諦めたらそこで試合終了ですよ」とい…

『月の満ち欠け』覚書

有村架純(正木瑠璃)がとても美しく撮れていた。 特に、三角がハンドカメラで映画風に撮影していた「リメンバラ〜♪」と口ずさむ有村架純は本当に美しかった。 かけがえのない妻・梢と娘・瑠璃を事故で亡くした夫・父が、娘は正木瑠璃の生まれ変わりで、しかも…

l'art pour l'art ──『ザ・メニュー』覚書

うーむむ。 前半のメニューのコンセプトの長話はまさに我々は言葉で料理を食べるのだなと思わされたし、また、l'art pour l'artとしての料理を、あるいは食い物にし、あるいは金に物を言わせ、あるいは虚栄心の対象としてきた連中──自分も一味であった──に一…

プライバシーがあるからこそ見えないのではあるが。──『ザリガニの鳴くところ』評註

私はテイトが真犯人だと思っていたので、なんともいやはや。 要は差別偏見で蔑視していた「汚穢」を、ぐるりと180度「神聖」に転回させているので、その意味では大転換であるが、しかし、カイアが常に街の人々から「外部」として扱われている点に変わりはな…

過ぎ去らない過去のために/メメントモリ──『すずめの戸締まり』評註

メメントモリ。 本作の主題はこれであろう。 予告PVで繰り返し流された「行ってきます」は、2011年3月11日の朝、被災地で交わされた何千、何万の「行ってきます」、そしてもう永遠に交わされることがない「行ってきます」であった・・・ 『天気の子』を経て…

なんとなくやりたいことは見えなくもないが…──『線は、僕を描く』覚書

主題は(タイトルから明らかなように)近代におけるアイデンティティの再帰性のお話。篠田湖山が明言するように、「君の線を見つけろ。そうすれば今度はその線が君を導いてくれる。」はまさにそういうことだろう。そして、そのためには自身の過去を直視し、乗…

『ぼくらのよあけ』覚書

AI、宇宙人(船)、人間。 完全なる他者と「つながる」こと。 その象徴が、みんなが繋いだラストのペットボトルロケット。 わからないなりに「わかる」こと。 主題はかなり好みであった。 宇宙船との交流はできるのに、わこはやっぱり嫌いだと言う花香のくだり…

愛するが故に、鳥籠を開けなければならないのです──『君を愛したひとりの僕へ』&『僕が愛したすべての君へ』覚書

1.はじめに(全体像) 論文締切が迫る中、こんなことやってる暇はないのだが、連続で見てきました。そういうときのが得てして楽しい。笑 最初に全体像の素描をしておくと、『君を愛したひとりの僕へ』(以下『君愛』とする)と『僕が愛したすべての君へ』(以下『…

『百花』覚書

結局、認知症で母の記憶が消えていくなかで、最後まで残っていたのは小さかった息子と見た「半分の花火」だった、つまり、それは一回自分を捨てた母といえど、やはり一番大切だった思い出は自分との思い出だったのだ、と菅田将暉が認識した、という話でいい…

故人を弔うということの意味──『マイ・ブロークン・マリコ』覚書

2022年9月27日、安倍晋三元首相の国葬儀が多くの批判がなされるなかで実施された。 ①法律の根拠がないことが憲法41条違反(法律の留保原則違反)であるという主張 ②特定故人の死のみを国家が特別視することが憲法14条1項違反(平等原則違反)であるという主張 し…

せめて、私の周りの世界だけは──『リコリス・リコイル 』覚書

『リコリス・リコイル』、マクロ条件の最悪具合はもはや所与の前提とせざるをえないなかで、ミクロの関係(千束とたきな、あるいは喫茶リコリスのメンツetc.)ではコミカルで最善の関係を築いていく、それが現下の日本の社会情勢と完全にマッチしているように…

付喪神からの照らし返し──『雨を告げる漂流団地』評註

1.はじめに 『雨を告げる漂流団地』、想定(想定とは?)とは違った話だったが、個人的にはとても好きな作品であった。これから何度も見返す作品になると思う。 見終わった直後は『ペンギン・ハイウェイ』とは違う作風だと思っていたが、夢のような経験と共に…

これ、『花とアリス殺人事件』でしょ…──『さかなのこ』覚書

『花とアリス殺人事件』の世界へようこそ!笑 一番最後に流れるリコーダー調の曲といい、世界観といい、『花とアリス殺人事件』である。 千葉の片田舎、そして成人してからは東京の、スモール・ワールドで繰り広げられる、ミー坊とその周囲の人たちの、世界…

『夏へのトンネル、さよならの出口』覚書

全体プロットのアイディアは悪くない、悪くないのだが・・・ やはりアニメ映画82分の尺では、花城あんずが8年間、いやひょっとしたらそれ以上の期間ずっと思い続けられるほど塔野カヲルを好きになる説得力ある積み上げには足りない。 劇中曲を流しながら重要…

暴力とポリコレ、そして運命列車──『ブレット・トレイン』評註

ホワイトデスとその一味が「怯えている」ことを喝破したエルダーは、まさに問題の所在を的確に見抜いている。そう、暴力を振るう者は、暴力に怯えているのである。『走れメロス』のディオニュソス王がそうであったように、猜疑と暴力、そして報復はセットで…

弓道と心の機微──『劇場版ツルネ ―はじまりの一射―(7.1ch上映)』評註

弓道というのは地味なスポーツである(たとえば『ハイキュー‼︎』が描くバレーボールと対比すれば明らかに動きは地味だしチームプレイ性も薄い)。 しかし地味であるが故に持つ競技への心理的機微の反映という繊細さと、さらに自分自身との戦いである部分にフォ…

「本物」とはそうあろうとする努力である──『今夜、世界からこの恋が消えても』評註

1.あらすじ 事故の後遺症で前向性健忘であった日野真織は、前向性健忘が治癒しはじめる。昨日の記憶があったのだ。そこで部屋の片付けを始め、「毎日寝る前に日記をつけること」「毎朝ワープロを見ること」といった指示を剥がすなどしはじめる。その際、棚…

『NOPE/ノープ』覚書

ホラーっちゃホラーでしょう… あとスプラッタといえばスプラッタ(お家血バシャーシーンはトラウマ…) まぁもうネタバレしちゃうと「なるほど」という話で終わってしまう。 UFOかと思ったら生き物だった、というね。 タコノマクラっぽさがありました。 完全体…

キャラクターの使い捨て──『ONE PIECE FILM RED』覚書

『ONE PIECE FILM RED』、開始10分までは『ONE PIECE』、以降は『Fate/stay night / Heaven's Feel』と聞いていたが、個人的には開始30分『ONE PIECE』、以降は『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編] 叛逆の物語』だなと思った。 とはいえ、そんな話は結末…

完全映画の理想の現実化としての『映画「五等分の花嫁」』(第2稿)

1.完全映画たる結婚式馴れ初めムービーとしての『映画「五等分の花嫁」』 本作は一言で言えば結婚式で流れる新郎新婦の馴れ初めから結婚までのムービーと言えなくもない。 しかし、四葉以外の一花、二乃、三玖、五月の姉妹同士の小さい頃から今までの関係…

愛、承認、生きる意味──『劇場版 RE:cycle of the PENGUINDRUM [後編]僕は君を愛してる』覚書

幾原監督は以前から『輪るピングドラム』テレビ版の結末をもっとハッピーエンドにしたかった、そうである。それを今回の映画で描くのだ、とも。 しかし、前編を見終わった段階での展望のようにはならず、結局、冠葉・晶馬は世界から消えたまま=テレビ版と同…

ミクロの火を絶やさないこととマクロの消失の危険──『映画 『ゆるキャン△』』覚書

「私たちが今楽しいって思ってることがいろんな人たちに伝わって、また、楽しさを伝えていく。」という、日本最高峰の温泉でのなでしこのリンへの話が全てであろう。「一番最初に私にキャンプの楽しさを教えてくれたのは、リンちゃんだもん。」 このようなミ…

人間は弱いから──『五等分の花嫁』中野一花についての覚書

『五等分の花嫁』2期ラスト、一花が三玖に化けて風太郎に「一花は風太郎のこと好きだよ。私、応援してる。」と言うのも、京都のあの娘が私だと言うのも、全部一発退場レッドカードである。人として超えてはならない一線である。まさに「やったのね」(ニ乃)で…

アイデンティティ、差異、承認──『五等分の花嫁』シリーズ評註

四葉のコンプレックスの原因は、現代人のほぼ全て、つまり我々と共通する、自分の代わりはいくらでもいる=必要とされないことからくるアイデンティティの不安定さ(危機)である。 前近代では移動の自由や職業選択の自由はなく、だいたい生まれてから死ぬまで…

戦争放棄と憲法9条──『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』評註

1. 主題:戦争放棄と憲法9条 広島カープの野球帽を被った少年が島にいる時点でもうお分かりのように、本作の主題は平和主義、それにラストのザク廃棄を含めれば戦争放棄であり、憲法9条で規律される事象である。 左の思想性が強い!笑 (もっとも、「現状」か…

枝分節、分節、枝分節、分節──『映画「五等分の花嫁」』覚書

──選ばれたのは、四葉だった。 途中で一花、二乃、三玖、四葉、五月全員の「〜の場合」が入ったときには、『僕は勉強ができない』を代表に近時人気のマルチエンドかと思いヒヤッとした。 ちなみにマルチエンドがダメなのは選択から真剣さが失われるからであ…

人気なのはなぜか?──『SPY×FAMILY』評註

今期のアニメでは『SPY×FAMILY』が人気を博しているようである。 かくいう私も毎週楽しみに見ている。 本作の面白いポイントは、アーニャの他人の心が読めるゆえの年齢不相応な大人っぽさとしかしぬぐえない子どもっぽさのギャップ、ロイドとヨルの裏の顔(ス…