人文学と法学、それとアニメーション。

人文学と法学、それとアニメーション。

次のジェノサイドを食い止めるために──『福田村事件』評註

福田村事件 – アップリンク吉祥寺

 

ちょくちょく謎の説明をし始め、また正論を演説しはじめる登場人物たちはまぁアレなのだけど、朝鮮人虐殺に至るメカニズム、特に背景にあった新聞の役回り(震災前から犯人不詳の凶悪犯罪については内務省からの要請で「不逞鮮人の仕業か?」などと記載していた)とか、在郷軍人会の構成員のメンタリティ(権威を笠に着て「アカ」だ「非国民」だと糾弾して回る上、自警団を組織してご満悦)とかは死ぬほどよくわかった。

 

平澤計七が出てきたときにはまぁ亀戸事件もやるんだろうなとは思ったが、案の定。関東大震災後の混乱に乗じて虐殺されたのは、朝鮮人・中国人だけではなく、日本人の社会主義者もである。(これは加藤直樹『九月、東京の路上で   1923年関東大震災ジェノサイドの残響』を2020年7月8日に読んでいた際に気づいたのだが、関東大震災が1923年9月1日(土)。そこから7日(金)まで朝鮮人虐殺が続き、16日(日)に甘粕事件で大杉栄伊藤野枝、橘宗一が殺される。非常時における「我々」でない者への暴力許容の空気感。)

 

また福田村事件の被害者の行商たちは被差別部落出身だった。差別と暴力の無限連鎖。

 

あの八嶋智人演じる、村長・元教師と同期の在郷軍人会の福田村分会長の在り方を描いてるだけでもよくやったと思う。暴力行使を好み、朝鮮人を鮮人鮮人と呼び、自警団を組織し、事あるごとに周囲を腰抜けだなんだとなじり、虐殺が日本人相手だったと判明したら一転泣き崩れて俺は頑張ったと言い始める。

 

隣の席の奴が虐殺場面以外始終クスクス笑ってたのはマジで感性を疑ったな…いや、まあ妻にオヤジと不倫された村人のところとか、最期、行商たちをかばう元教師、田中麗奈、不倫してた妻、船頭・・・と出てきたところも、まあ笑えるといえば笑えるのだが、他方であのオヤジと不倫された村人が行商に執拗にからんだのが虐殺の一つのきっかけであり、そしてその背景には壮行会の席での船頭との揉め事の理由にもなっていた、「戦争に行っとる間に妻が間男と寝とったらやっとれん」という話があったわけで、虐殺に至る背景にある有害な男性性、家父長制マインドの描出として必要不可欠であったし、最期の異端者、村八分たちの連帯はありえた、あるいはもしかしたらこの先ありうる虐殺を阻止できる希望の連帯なのであって、いささか陳腐さがあるにしろ嘲笑すべきことではないように思った。

 

虐殺の発端の、あの女の子が、噂を鵜呑みにしたばかりに斧を振り下ろして殺したのとか、純粋無垢であるがゆえに噂を信じて手を下してしまうという悲劇性を非常に際立たせており、本当にありえそうだなと思った。

 

東京の特殊性。私たちは、かつてレイシズムによって多くの隣人を虐殺したという特殊な歴史を持つ都市に住んでいるのである。」(加藤直樹『九月、東京の路上で 1923年関東大震災 ジェノサイドの残響』199頁)

 

もし、次回の大災害の際、自分だけでもいきり立つ群衆の前に立ち、朝鮮人を守れるか?、あるいは、そういう人間をどうやれば増やせるか?を、最近ずっと問うている。