人文学と法学、それとアニメーション。

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2024-01-01から1年間の記事一覧

2024年の不安定で未来の見えない日本より、愛を込めて。──水島努『終末トレインどこへいく?』評註

2024年4月18日現在、3話まで放送されていないが、現時点でのメモと予想を残しておく。 1話の7Gによる世界変容は、トランプ支持者による1月6日に結実し、またコロナパンデミックにより膾炙したワクチン=5G陰謀論の示唆であり、2話の寄せ波は3.11の津波であろ…

「現実」を観てないのは誰か?──石井裕也『月』批判

本作の感想を目にした。案の定「深い」とか「重い」とかの定型句に「考えさせられる」という定型句を繋いだ感想が予想どおり散見され、「一生考えてろ」とキレ散らかしている。そもそも、相模原障害者殺傷事件があったやまゆり園は森深くに隠されていた施設…

ただ、隣に立つことを──成島出監督『52ヘルツのクジラたち』評註

これは今、なるべく多くの人に観てほしい映画。 2024年日本の『アンティゴネー』と言ってもよい作品。 こんなことは、もう繰り返しちゃいけない。 書いていてハッと気付かされたが、「信仰」も「性自認」も目には見えないという共通点があった。 いやー、し…

映画とプラネタリウムの相似性──三宅唱『夜明けのすべて』評註

うまくやりたいのに、うまくやれない。 現代社会は非常に高度なコミュニケーション能力ないし素質が必要となり、その能力を欠く人間を社会の外に弾き出す。特に、長引く経済不況と新自由主義的思考様式・行動様式の浸透と自己責任言説の流布・繁茂により、そ…

自由・ケア・愛──『ガンダムSEED FREEDOM』評註

遺伝子操作せず誕生したナチュラルと、遺伝子操作して誕生したコーディネートという、二種類の人間が居る世界。かつてキラ・ヤマトとラクス・クラインは、かつて人類の争いに辟易したデュランダルが示したディスティニープラン(全ての人間をコーディネートに…

降りて傷ついたその先に──尾石達也『傷物語 こよみヴァンプ』評註

1 近代的個人主体から降りること 権力あるいは近代的個人主体から「降りること」は、そのあとの苦難苦渋を考えると、潔く「自殺」した方が楽かもしれない。 ちょうど『君たちはどう生きるか』の地下の「我を学ぶ者は死す」の引用元である、林房雄の短編に出…

縦と横、あるいは住居と階層──『コンクリート・ユートピア』評註

占有原理から持家制度=所有原理に象徴される貧富の格差を批判する作品で、特に災害時にこそその支配意識が顕在化する様を精緻に描き出す(文学は社会構造をなす亀裂を極大化しえ、それにより人々の意識を明瞭にし、可能な限りよい選択をなさしめる)。最愛の妻…