人文学と法学、それとアニメーション。

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愛するが故に、鳥籠を開けなければならないのです──『君を愛したひとりの僕へ』&『僕が愛したすべての君へ』覚書

 

1.はじめに(全体像)

 

論文締切が迫る中、こんなことやってる暇はないのだが、連続で見てきました。そういうときのが得てして楽しい。笑

 

最初に全体像の素描をしておくと、『君を愛したひとりの僕へ』(以下『君愛』とする)と『僕が愛したすべての君へ』(以下『僕愛』とする)は2つの並行世界の話である。その分岐は、7歳の暦が両親の離婚に伴い父についていくか母についていくかのどちらを選んだかによっていた。

 

『君愛』が父、『僕愛』が母について行った世界である。

 

いずれの世界でも暦は研究者・瀧川和音と出会い、人生の最後のときを共に過ごすことになる。

 

2.『君愛』世界

『君愛』世界の研究所で、暦は父の同僚の佐藤の娘・栞と出会い、互いに恋に落ちるが、暦の父と佐藤が再婚することになり、暦と栞は兄妹となるから結婚できなくなると早とちりをして絶望。並行世界に逃げようと2人で移動カプセルに入るが、並行世界の方で栞が交差点で跳ねられて即死。こちらに戻ってきたときには、栞の虚質は事故のあった交差点に幽霊として留まって出られず、肉体は脳死になった。数年経って栞の肉体の心臓が止まり死亡。しかし、虚室は残ったままだった。瀧川和音は、暦を高校時代からライバル視していたため外国で博士号取得後暦の研究室に入るため帰国。そこで、暦が栞を助けるため研究費を横領し、栞の事故死という事象の収束範囲外に栞を飛ばすため、自分と絶対に出会わない世界分岐まで時間遡行する研究をしていることを和音は知る。結局、和音は暦の研究パートナーとなり、黒ビールの泡が消えない事実から着想を得た暦は時間遡行理論を完成させる。果たして、60年後、余命宣告を受けた暦は、栞に会いに行き、『僕愛』世界での再会を約束してしまう。その後和音の手により、『僕愛』の世界の暦に転送され、人格融合により『君愛』の世界の暦は脳死状態に。『僕愛』世界で人格融合した暦は、昭和通り交差点に記憶にない約束の予定がデバイスにあることから向かうが、そこで見知らぬおばあさんに助けられ、「名乗るほどのものではございません」と告げられたのだった。

 

3.『僕愛』世界

対して、『僕愛』の世界では、暦は栞には出会わず(厳密には一回研究所で会うが深い関係にはならず)、高校時代振られ続けた和音と大学時代から付き合うようになり結婚し、子をもうけることになる。マシーン恐竜展示で無差別殺傷事件に遭遇し、この世界では息子は助かるが、すぐ隣の世界では息子は死に、それに耐えきれなくなった別の世界の和音がオプショナルシフトをしてくる、という事件があったが、まぁ大事件はそれくらいかな。

 

で、60年後に余命宣告された暦に『君愛』世界の暦が入ることになっているから、謎の彼女(栞)に会いに行かせてあげて欲しいという書置きを『君愛』世界の和音がオプショナルシフトでやっていた。

 

違う世界だが同じ和音だから、暦を愛しているのはわかるし、だから他の人のところに行くのを快く送り出せはしないだろうけど、一人の人を一生かけて愛した彼の信じる奇跡を、どうか実現させて欲しいと、そういう形で誰かの切実な思いが別の誰かに伝わって、その思いが実現していくなら、それは生きるに値する世界なのだ、と。

 

これは『リズと青い鳥』のテーマと『Sonny Boy』のテーマの結合であり、まぁこれだけでも佳作は固いでしょう。

 

4.覚書

 

しかし、やりたいことはよくわかるんだが、道で出会った見ず知らずの人間にいきなり「今幸せですか?」って聞くのは宗教なんよな…

 

また、栞に「見返りなしに他人を助ける」云々を言わせるのも唐突すぎる。

 

「記憶をなくした暦くんを私が助けて」も、「俺が栞を助ける」も、全て果たされ、まぁそれはそれで愛(あるいは意思)により運命に立ち向かった話ではあり、大変好みではあるのだが、いまいち乗り切れなかったな…

 

また和音のあり方、特に『君愛』世界の、暦と結婚しないが「愛していた」あり方、それは『僕愛』のつまり結婚した和音への置手紙でわかるのだが、そのあり方も大変好きだなぁと。これもやはり結婚という制度を超えた愛と意思の話だし。