人文学と法学、それとアニメーション。

人文学と法学、それとアニメーション。

2022-01-01から1年間の記事一覧

魂の揺れと鎮魂、革命──『犬王』評註

「誠実であろうが、熱心であろうが、自分ができあいのやつを胸にたくわえているんじゃなくって、石と鉄と触れて火花の出るように、相手次第で摩擦の具合がうまくゆけば、当事者二人の間に起こるべき現象である。自分の有する性質というよりはむしろ精神の交…

年齢をダメな自分を変えない言い訳にしないために──『ドクター・ストレンジ マルチバース・オブ・マッドネス』評註

本作の主題はズバリ、変人で傲岸不遜で人の話を聞かない厄介おじさん、ドクター・ストレンジが、本作中での(マルチバースでの自分や周囲の人々を含む)他者との関わりの中で、そのような自分でしかあれない理由を他人と本気で関わりそして傷つくことへの恐怖…

フィクションは人を救う──『ハケンアニメ』覚書

基本的には実写版『SHIROBAKO』といった趣きがある。 しかし、中身は『SHIROBAKO』よりも濃いように感じた。 もちろん、齋藤と行城、あるいは王子と有科の監督・プロデューサー関係の対抗軸や、齋藤と王子の覇権争奪戦、行城が持ってくる宣伝イベントの苦痛…

『チェルノブイリ1986』覚書

チェルノブイリ原発事故がテーマ。爆発の衝撃、現場のぬかるみや残骸の散らばり方と原発のデカさ、予想外が連発される事故現場、崩壊した原子炉の中に見える不気味な光、爆発初発に対応した消防隊の同僚がバタバタ火傷や急性放射線被曝で死んでいく様の恐ろ…

「跳ぶ」ために──『バブル』覚書

泡であるウタは、あの日、東京タワーでヒビキに歌を歌っているのを見つけて貰って、人間の言葉で言えば恋に落ちた。 それを快く思わない姉の泡が怒り、東京タワーの爆発が生じ、また東京が降泡現象で沈み、人が住めなくなった。 そんな中でウタはヒビキを爆…

人間という種をどう見るか?──『シン・ウルトラマン』評註

本作は色々な系譜の上に位置付けることができるだろう。 『ウルトラマン』シリーズの文脈はもちろんであるが、『シン・ゴジラ』、『シン・エヴァンゲリオン』のシリーズの文脈もそうであろう。 また「巨人」の文脈では近時の『進撃の巨人』がある。 そのよう…

地に足のついたデモクラシー、すなわち一人ひとりの「声」をきちんと聴くこと──『ボストン市庁舎』評註

『ニューヨーク公共図書館』よりも長いというのはもはや罪である(笑) しかし、かなり面白い。 本映画では抽象的な理念である「民主主義」が、地に足のついたもの=「議論」「コミュニケーション」として措定され、具体的な個人一人ひとりの「声」を聴くことと…

科学・フィクション・アニメーション━━石田祐康監督『ペンギン・ハイウェイ』評註

目次 1 はじめに 2 小説『ペンギン・ハイウェイ』の特徴 (1)リアリティの獲得 ア 自然科学の実証研究方法論 イ 「死」という謎 ウ 小まとめ (2)フィクションと径庭なき自然科学=現実 (3)まとめ 3 小説からアニメ映画へ―エウレカ― 4 おわりに …

「運命」に対する両義的立場に立つ「愛」(と「家族」)──『RE : cycle of the PENGUINDRUM』評註

ピングドラム劇場版前編。 小さくなった冠葉と晶馬が例の水族館に。 テレビ版の年齢の自分たちと陽毬を棚かげからみていたら、ベイビーペンギンが。ついてこいと言ってるようだ。 ついていくと、エレベーター。地下2階までしかないが、パネルをひっくり返す…

過去と未来と現在と──『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』覚書

本作においては、主題歌『クロノスタシス』が象徴的である。クロノスタシスとは過去の一瞬の出来事が長く尾を惹き目の前にちらつくこと。佐藤と降谷の目の前に去就する今は亡き者たち、エレニカの目の前に去就する今は亡き者たち、それらと現在のプラーミャ…

愛を切ることと愛で繋ぐこと──『ファンタスティックビーストとダンブルドアの秘密』評註

本作のテーマの一つは愛であり、そのコインの裏側の孤独である。 ダンブルドアとグリンデルバンドとの愛の血の誓いの束縛。それを打破したダンブルドアにグリンデルバンドが告げたのは「私以外にお前を愛せる者はいない。お前は一生孤独だぞ。」であった。 …

ベルファスト哀歌──『ベルファスト』覚書

1969年8月15日、北アイルランドベルファスト。舞台はその時、その場所に措定される。 それまでのベルファストは、複雑な歴史的経緯からプロテスタントとカトリックが入り混じりながらもこれといった争いなく穏やかに暮らす、住民皆が顔見知りの穏やかな街で…

劇作家でそれ!?──『ドライブ・マイ・カー』覚書

家福悠介と渡利みさきという、法的には何ら責任はないものの、しかし自身の内心のかすかなわだかまりが契機となり、肉親の死に責任を感じるようになってしまった二人が出会い、話しを重ねていくことで、各々の過去と向き合い、そして立ち直るというのがメイ…

省察の深さへの試金石──『THE BATMAN』覚書

一見、バットマンは悪者を倒す悪者、ダークヒーローであり、治安最悪のゴッサムシティでは必要悪であるように思われる。 しかし「復讐」を名乗り、暴力で暴力を制するそのやり方は、結局より深い闇を生み出す結果しか生まないというのが本作の鋭い指摘では…

同じ毎日という奇跡──『君が落とした青空』覚書

特に何か観る予定もなくたまたまドライブで車を走らせた先のモールの映画館でたまたま観た作品。 役者の演技のぎこちなさ、ループもの……地雷を引いた感が冒頭こそ強かったものの、終わってみればなかなか良い線行っていた作品である。 特に現実①→ループ②→ル…

主題のロスト──『ブルーサーマル』覚書

キラキラ大学生活に憧れる主人公が長崎から上京し、テニサー体験学習中にボールを打ち損じ、グライダーを壊したところから航空部に入ることになり、そこの一年生エースになり…というお話。 アニメーションにおいて、必ずしも主題は重要ではない。それは──た…

王道とプラスアルファ──『DEEMO サクラノオト -あなたの奏でた音が、今も響く-』覚書

ピアノがある上の空いた塔のような空間に落ちてきた少女・アリス。ディーモと呼ばれる黒い大人の人影のような存在者がアリスをキャッチする。寝て起きたアリスは、ねこのぬいぐるみ「ミライ」、くるみ割り人形の「くるみ割り」、妖精の「においぶくろ」たち…

君があると言ったから──『グッバイ、ドン・グリーズ!』と奇跡の自己言及

1.あらすじ 冒頭。 短髪のロウマとトトがドングリーズと掘ってある木板を焚き火で燃やしている。 「人って、こんなにあっけなく死ぬものなんだって当時はまだ知らなかった」と回想をするロウマのセリフからは、そこにいないドン・グリーズのメンバー、ドロ…

アニメにおける脚本の大切さと空中分解──『鹿の王』感想

まずもって映像は美しい、アニメーションにも文句はない。 また堤真一と竹内涼真の演技も素晴らしかった。 しかし、残念なことに、脚本があまりにも支離滅裂である。 アニメーションで見せるのではなく、最初の口頭での背景説明や、医師ホッサルのモノロー…

真の強さとは?──『クライ・マッチョ』評註

かつてのマッチョたる老人と、マッチョを目指す青年のロードムービーとでも言えばまとまるだろうか。 1.あらすじ かつては一流と呼ばれた白人でマッチョのカウボーイの老人マイク・マイロが、友人(ハワード・ポーク)の息子ラファエロ・ポークを、メキシコの…

仮面を被るということは。──『泣きたい私は猫をかぶる』覚書

笹木美代は「無限大謎人間」通称「ムゲ」と呼ばれ、豪放磊落に笑い、好意を寄せる日之出賢人には毎日ハイテンションでウザ絡みしている。 そんな美代の前に、ある夏祭りの夜、仮面屋と呼ばれる人語を介す猫が現れ、「猫になれる仮面」をもらう。これにより、…

測定できない未来への賭け──『地球外少年少女』評註

磯監督の異色の出来の前作『電脳コイル』で出てきた各種デバイスやキャラクターたちを彷彿とさせ、その正統進化を思わせる数々のモノたち。宇宙=無重力での人体の動き。シナリオから目を外し、単に目に見えるものや動きを追いかけるだけでも十分に楽しめる。…

現実と距離を取るために(2)──山田尚子監督『平家物語』評註

1 物語は、ハッピーエンドがいいよ!——『聲の形』『リズと青い鳥』 山田尚子は、理想を描くアニメ監督である。 こういうと、「いや、それは別に山田尚子に限ったことではない」と、こう反論したくなるかもしれない。 たしかに、アニメーションは、いや、さ…

それが正しいことならば──『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』評註

1. あらすじ (1)スパイダーマンの正体がピーター・パーカーであると発覚、報道 (2)メイおばさん、MJ、ネッドらに迷惑が及ぶ。特にMJ、ネッドはピーターと同じく、騒動を理由にMITに落ちる。 (3)ピーターは魔法使いストレンジに「スパイダーマンの正体がピー…