人文学と法学、それとアニメーション。

人文学と法学、それとアニメーション。

『テノール!人生はハーモニー』覚書

主人公・アントワーヌ・ゼルカウィは移民?の子か。 兄貴の違法格闘の金を学費にし、生活費は寿司屋のバイトで稼いでいる。 不良?の若者たちが幼なじみであり、界隈の家族同然である。 敵対勢力とのラップバトルもする。 しかし、ある日、寿司の配達バイト…

「アオサギ又はサギ男」についての覚書:『The boy and the Fiction』──宮崎駿監督『君たちはどう生きるか』評註

一切の宣伝なし、劇場パンフレット販売もなしという異例の状況下で公開が続く『君たちはどう生きるか』は、「難しい」「よくわからない」はては「宮崎駿の走馬灯だから意味不明で正解なんだ」という見解まで出てくる状況である。 しかし、特に『ハウルの動く…

フィクションと媒介性──宮崎駿監督『君たちはどう生きるか』評註

『君たちはどう生きるか』冒頭の火災はただの火災で空襲ではない。しかし、何のメタファー(暗喩)かと言えば、劇中にここぞとばかりに描かれる日中戦争そして太平洋戦争時の日本国内の様子(徴兵者の町内挙っての見送り、戦車パレード、軍需産業の活況、おばあ…

再生産と縮小──『君たちはどう生きるか』覚書

冒頭。 戦後70年を過ぎ、再度軍拡を進める岸田政権への批判として、いわば宮崎駿自身の戦後世代の責任・総括として、東京大空襲の話から入るんかと思ったが、なんなんだコレは…… (そういや宮崎駿が復帰して本作作り始めたときのドキュメンタリーで昭和の木造…

小さくてもできること──『マルセル 靴をはいた小さな貝』覚書

まぁとにかくキュートですよね、マルセルと家族たち。笑 あと、特にマルセルは体が小さいくせに、しかも人間たる動画作成者に対してウィットに富んだジョークを連発し、ときに深いことを言う。それでいてウソは言わない。これはウケますわ。笑笑 モーツァル…

Epicureanたちの祝宴──『交換ウソ日記』評註

タイトルが絶妙にダサい。笑 とはいえ、ウソが本当になる話はめちゃくちゃ好き。 また、手書きの手紙や交換日記で互いを徐々に知っていくという、今は失われてしまったロストテクノロジーが、スマホのSNSアプリラインと同時並行で登場するのは本当によい・・…

かつての私にさよならを──『青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ない』覚書

18歳でまわりの「みんな」の反対を押し切って、卯月を産んだ卯月の母。これはもし「みんな」の意見に従っていたら、卯月は存在していなかったことを意味する。「だから、あなたの幸せは、「みんな」が決めるべきことじゃないの。」これは説得力がある。 青ブ…

ロック・アナーキー・子供──『スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース』〔吹替版〕覚書

スパイダーマンシリーズ全体の特徴でもあろうが、ビル間を自由自在に抜けていく疾走感と何気ない会話のテンポ感、カメラのグワングワンとメニースパイダーマンたちのわちゃわちゃ感の良さ、良さ、良さ! 2時間がまぁあっという間である(しかし、さはさりなが…

──是枝裕和監督『怪物』評註

1.あらすじ 麦野湊の母・早織は、ある日息子(湊)が夜家に帰らず、廃線になった山で見つけ車で連れ帰る途中、走行中の車から飛び降りるなどの挙動をした後、病院から帰る途中、「僕の脳には豚の脳が入ってるんでしょ!」と暴れて泣き始める事態に遭遇する。以…

少しでも気づかれてしまえば傷つきこわれてしまうような脆弱な心の機微──『ミューズは溺れない』評註

こういう映画を年に数本観る(見つける)ために映画館に通っているといっても過言でないスバラシイ作品……今思い返しても嘆息が出る。 1.ショット まずはショットが一々美しい。 冒頭の漁港で朔子が落ちる前の、朔子と光の視線が(モンタージュであるが)合うシーン。…

パリは、あるいは人の世は、少しは生きるに値する世界になったかしら?──『パリタクシー』評註

タクシーでの一日と老女の一生(回想)を被せたり(人生を一日24時間で表せば?という比喩はよくある)、タクシー運転手の目から見たパリ(それは目線の(高さ)の話だけではなく、赤信号無視で警官に捕まるとかレストランのトイレを借りるとか)を描いてる点だけで…

生の根源的偶有性と、それゆえの社会運動と。──『パリタクシー』覚書

「私には、自殺の才能すらなかったのね。」 これに尽きる。 何が? 人生が、だ。 我々は皆、ただ偶然死んでいないだけ。 ただそれだけであって、彼我の差はほぼない。 「生きるか死ぬかなんてただの運なんだって、私、小さい頃からずっと思ってきました。」…

絶頂から転落へ、そしてフィクションへ・・・?──『TAR ター』覚書

ひとことで言えば『平家物語』である。 *** まず、冒頭の文字が長い。 監督や役者の紹介、本来であればエンドロールにあるような内容が長々と流される。 プロロール(?)でエンドロールをやっているのである。 そして、その意図は、エンドロールが極端に…

法とは何か?──『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』評註

『PSYCHO-PASS サイコパス』シリーズは正直1期が至高であり、かつ1期で終わらせておくべきだった作品である。なまじ人気がでてしまっただけに、2期3期劇場版5作品とこれまで駄作が続いてしまった…が、今回は1期の話の本筋に回帰しつつはある(3期で灼が言う「…

まさに「価値観のアップデート」?──『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』評註

0.「価値観のアップデート」という語が見えなくさせるもの 私は差別禁止や多様性の場面で語られる「価値観のアップデート」という言葉が嫌いである。なぜならば、もとから加害性があった(ダメだった)のに、単に自身の鈍感さでそれに気づいていなかったという…

救いようがない者をこそ──『劇場アニメ「らくだい魔女 フウカと闇の魔女」』覚書

まずは設定の棒読みの連打はアニメーションの否定である。 他方で、フウカやカリンの表情など、アニメだからできる描写もあった。 カリンのチトセに対するドギマギ感がとてもよかった。笑 またストーリー全体はよくまとまっていたように思う。 闇の魔女の逸…

フィクションと「他者」に一歩踏み込むこと──『グリッドマンユニバース』評註

TVシリーズの『SSSS.GRIDMAN』と『SSSS.DYNAZENON』の登場キャラクターが勢揃いする(!)作品。 みんな六花の家に泊まるので、修学旅行感が半端ない。笑 宝多家のリビングで裕太や六花や将、新世紀中学生組、ダイナゼノン組みんなで焼肉つついて、わちゃわち…

絶望を覆う仮面──『シン・仮面ライダー』覚書

冒頭から流血の嵐でギョッとする。笑 これが人を殺すということよ・・・ でもダンプのカーチェイスとか、コンビナート上での2号との戦いとか、めちゃくちゃ好きだわ。 *** 本作のキーワードは、もちろんスタジオカラーが強調している「継承・孤高・友情」…

人生を鳥瞰した後にようやく踏み出せる一歩──『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』評註

ただ夫ときちんと向き合う。 ただ娘ときちんと向き合う。 ただ父ときちんと向き合う。 ただ隣人ときちんと向き合う。 そして自分自身ときちんと向き合う。 ……ことの、難しさ。 そのためにマルチバースの旅、いな、神になる旅があった。 そのささいな、しかし…

周囲から切れている時間の大切さ──『イニシェリン島の精霊』評註

1 あらすじ 1923年、アイルランドはイニシェリン島。この小さな陰気な島で暮らすパードリックは、長年の友人コルムからいきなり絶縁を宣言される。それでもどうにか仲直り?しようと頑張るパードリックであったが、コルムからは、「もしこれ以上話しか…

組織の論理あるいは国家機能の価値中立性──『ヒトラーのための虐殺会議』覚書

会議の雰囲気が完全に厄介な産業廃棄物の最終処分をどうするかという自治体や行政庁間での押し付けあいのそれである。割り当てられた処分数と取引。処分の優先順位で揉め、また処分についての官庁間の権限で揉めている。しかし、もちろん産廃ではなくユダヤ…

???──『RRR』覚書

『RRR』、強く推す声をいくつか見たので行ってみたが、個人的にはイマイチだった。 もちろんインド人を銃弾1つの価値より下と見て残虐の限りを尽くすイギリス、その象徴としての総督夫妻に対する勧善懲悪の筋は分かり易い。 しかし、なぜかビームに優しく刑…

かけがえのない子供──『対峙』評註

ヘイドンによるエヴァンスを含む銃乱射殺傷事件から6年。ヘイドンは事件を起こした校内で自殺。 ヘイドンとエヴァンスの両親が、4人のみで、小さな教会の一室で面会し、会話をする。 この作品を言葉で表現するのは不粋であろう。 あの緊張感と、そして被害者…

Not disabilities, But 〇〇 with disability. ──『ケイコ、目を澄ませて』評註

もう冒頭の、恵子と松本のコンビネーション、 タタタタ、タタタタ、タタタタ、タン タタタタ、タタタタ、タタタタ、タン が上手く、リズミカルに決まっている様子だけですでに凄い、 ああ、これはコミュニケーションだな、と直感的にわかる。 耳の聞こえない…

諸行無常、しかし、映画は、俳優は永久に残る──『バビロン』評註

いや、マジ好きすぎるんよな…。 女優の客へのゴールデンシャワー(放尿)から始まり、酒、タバコ、女、ドラッグ、セックス、同性愛、賭博、そして暴力。 映画関係者たちによる華やかなパーティがあり、全て手に入れ、そして、全てなくなった。 しかし映画だけ…

他者という問題──『劇場総集編 SSSS.GRIDMAN』覚書

やっぱり気に入らないからと言って簡単に他人を殺しちゃダメだよね、と再確認(当たり前)。 他者問題。 これは、近時の作品では『ブレッド・トレイン』の問題系でもある。コントロール不可能性の先に「偶然」=「他者」が出てくるのであって、それは「運命」に…

「ドリームアライアンス」(馬さん)を守るための法律構成──『ドリーム・ホース』評註

1.あらすじ 若年で夫と出来ちゃった結婚をし、日中はスーパーでパート、夜はバーでウェイター、老親の介護もするウェールズの田舎に住む主婦・ジェンは、日常に退屈していた。 ある日、夜勤のバーで、元馬主組合の会計士・ハワードが競走馬の話をしているの…

肩の荷を下ろすこと──『お兄ちゃんはおしまい!』1話覚書

科学者たる妹・緒山みはりに盛られた薬でひきこもりの兄・緒山まひろは女子小学生になってしまう!! トイレ(排尿の仕方)、スカート、ブラジャー、髪の洗い方から生理や女風呂、水着、化粧……と男から女に変わると色々大変なことが実感できる、という筋立て。…

舞台設定の難しさ──『金の国 水の国』覚書

『金の国 水の国』。 断続的に戦闘状態であった金の国と水の国。 その王同士のかつての盟約により、金の国は一番美しい王女を水の国の青年と、水の国は国で一番賢い青年を王女とそれぞれ結婚させる、という約束が結ばれていた。 その履行をするのだが、金の…

尾道訪問のきろく

今日は尾道に行っていました。 気候はいいし、雰囲気はいいし、とにかく最高でした。 その記録。