人文学と法学、それとアニメーション。

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法とは何か?──『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』評註

 

PSYCHO-PASS サイコパス』シリーズは正直1期が至高であり、かつ1期で終わらせておくべきだった作品である。なまじ人気がでてしまっただけに、2期3期劇場版5作品とこれまで駄作が続いてしまった…が、今回は1期の話の本筋に回帰しつつはある(3期で灼が言う「でもドミネーターで一つだけ気に入っているところがある。それは銃の形をしているところだ。シビュラシステムは引き金をひくかどうかの最後の判断を人に委ねている」だけは、1期とPROVIDENCEと共鳴する)。

 

PROVIDENCE冒頭は、省庁間会議から。

議題は法及び法務省を廃止しシビュラシステム及び厚生省に一元化してよいかどうか。

(「厚生省」という組織は現実の歴史において、国民優生のために作られた組織であり、新体制運動・近衛文麿内閣の目玉でもあった。そしてその上で、刑法内部の議論で新派の立場に立てば、刑法の医療への統合が完了し、かくして「公安局刑事課」が「厚生省」の管轄下に作られることになる。)

法の全面廃止は国際法の廃止も意味し、そこが問題であると主張する常守朱

対して法の廃止を主張する官僚たちはシーアンの一件からもシビュラシステムの輸出が順調に進めば問題ないと反論する。

 

そう、2023年5月の今まさに、現実の日本で問題になっている入管法の改正(改悪)及び外国人技能実習生の問題と同様、「外国(人)」の問題が問われているのである。それはまさにメイプルソープ事件(3判平成20219民集622445頁)が起きたのが税関であったのは偶然ではないことと一致する。「外国(人)」の価値観=社会通念は安定した「国内」の価値観=社会通念を揺るがせるからである。

 

鎖国していた国境を開いたという慎導篤志と常守の車中での会話で出た、外国人は殆どが紛争経験者であるから、国内の日本人に適正化されたシビュラシステムがそのまま適用されると、大抵が執行=殺処分対象になってしまう。そこに「シビュラシステムが作った理想郷たる日本」と「紛争が続く地獄の海外」とのギャップ──いずれも「現実」だが、が存在する。「紛争が続く地獄の海外」で暮らす人間(外国人)が居るという現実を直視し、皆殺しにしないという選択をするならば、たちまちシビュラの理想の「外」の理屈が必要となり、犯罪係数が100どころか300を超えるような者でも公務員として使い、「法」を執行する必要がある。

 

かくして、外務省行動課という、シビュラシステム(厚生省=優生思想=俗流功利主義)の外部の「現実」に対処するロジックが必要となり、また法務省よりも外務省が「法」執行機関として登場することになる。

 

「法」は「内」ではなく「外」との関係でこそ、必要になるのである。

 

そして「法」は同時に、シビュラシステム=AIに全てを委ねず、人の判断を挟むことをも意味する。

 

つまり、3期の灼の言う「引き金を引く」かどうかの判断こそは「法」なのだ。

 

雑賀教授が気にしていた、狡噛慎也の砺波化だったが、結局、今度は常守朱が人(禾生局長)を公衆の面前で射殺するという役回りを演じることになる(もっとも、槙島と同じ境地に立つべきならばシビュラの一部であり人間ではなく死なない禾生ではなく、本物の人間、たとえば砺波や、あるいは慎導篤を殺すべきだったと思う。ある意味、禾生殺害は逃げである)。

 

1期で槙島聖護を射殺できず、舟橋ユキを目の前で殺された常守朱の課題は「シビュラシステムが維持する秩序という利点は認めつつ、法という人間のよりよい手段を探り続ける」ことだったわけだが、免罪体質者である自分自身が禾生を殺すことで、シビュラシステムの不備を公衆に露わにし、「法(刑法)」の廃止に待ったをかけた。

 

AIと法、あるいはAIと人間は協力できるし、しなければならない。なぜなら、そうではなくAIだけの世界(北方領域の全自動組み立て工場)が出来たとしたら、それはもはや人間の生きている意味を剥奪することになるからである。

 

※1 人間と動物の違いという、唐杜から狡噛への問い。私は齋藤亜矢の進化芸術学から、あるいは野矢茂樹やエルネスト・カッシーラーから「想像力」だと答えるところであったが、おおよそ合っていた。唐杜が提示したのは、人間は客観すなわち神の視点を持てることだと。この客観が精神から分離すると、神とシンクロするようになる。しかし、神の声がきこえるのは、統合が失調しているからで、ほんとうは自身の内の声を外部の声として覚知しているにすぎない。

 

※2 Productio IGが作る「出島」は大体『攻殻機動隊 イノセンス』になりがち。あるいはS.A.C.の「草迷宮」回か。