人文学と法学、それとアニメーション。

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「ドリームアライアンス」(馬さん)を守るための法律構成──『ドリーム・ホース』評註

 

1.あらすじ

若年で夫と出来ちゃった結婚をし、日中はスーパーでパート、夜はバーでウェイター、老親の介護もするウェールズの田舎に住む主婦・ジェンは、日常に退屈していた。

 

ある日、夜勤のバーで、元馬主組合の会計士・ハワードが競走馬の話をしているのを耳にし、田舎の町民を集めて馬主組合を結成し、ジェンが雌馬を買い、夫・ブライアンと共に育てることになる。雄馬の種づけをし、いざ出産……になるが、この雌馬は出産で死んでしまい、産まれた子馬は組合の決議で「ドリームアライアンス(夢の同盟者)」と名づけられる。

 

ドリームアライアンスは有名調教師に預けられ、初レースで4位。そこから数々のレースに入賞し、ウェルシュナショナルに出場するも、途中で転倒し腱を切断してしまう。一次は安楽死かとも騒がれたが、ジャンと組合員の決断で多額の金をかけて治療を選択する。そして、幹細胞治療が功をなした結果、ドリームアライアンスは再度レースに舞い戻り、復帰初のウェルシュナショナルで優勝するのであった。

 

2.評註

馬主組合結成まで死んだような目をしていた、ジャンとブライアン、会計士、酒場のマスター、のんだくれ、依存症のおばあさん、役人、肉屋の女主人が、ドリームアライアンスのおかげで生き生き生活をしはじめたのは本当に見ていて楽しくなった。

 

また、ドリームアライアンス復帰後初のウェルシュナショナルでの優勝もよすぎた。

 

しかし、もっとも注目すべきは、この話が「組合契約societas」の本義に忠実である、ということである。

 

組合契約は占有的発想をベースとするため、基本的に所有権的発想に立つ現在の日本法とは相性が悪く、なかなか理解されない契約類型であるが、原型は「委任契約mandatum」を相互に組み合わせたものであり、共同占有資産に対する実力行使を相互牽制し、資産を安心・安定させることを狙いとする契約である(木庭顕『ローマ法案内』『現代日本法へのカタバシス』ほか参照)。

 

この観点から見たときに、劇中では2回、組合契約が良い方向に働く場面がある。

 

1回目は初優勝後、貴族の馬主からドリームアライアンスの売り渡しを求められる場面。

 

2回目はドリームアライアンスが負傷し、安楽死もありうると告げられる場面。

 

1回目については、酒場のマスターと役人が組合契約を盾に売り払うよう主張するが、ジャンが「売るのはあり得ない」と押し切る。

 

また2回目は、治療に保険適用はなく莫大な費用がかかると言われこれまた酒場のマスターと役人が反対するが、ジャンの「ドリームアライアンスが来る前の私たちはどうだった?」から始まる長広舌の演説で、ドリームアライアンスが皆の生きる希望になっていたことが確認され、マスターと役人も治療に同意する。

 

そう、組合契約による資産保全は馬を殺さない、食い物にしないためにこそ威力を発揮する。

 

(これは木庭顕『法学再入門:秘密の扉』のおはなぼうという牛=(ヌアー族における)資産についてのパラデイクマとパラレルである)。

 

そして、本来短期投資どころか賭博である競馬に、組合契約は使えないようにも思えるが、ドリームアライアンス(=夢の同盟者)という名前からも、またドリームアライアンスを売却処分しないことからも明らかなように、賭博ですら理念に照らして解体し、夢=公共=誰のものでもないものを現実としてしまう、もっとも可能性のある方法なのである。

 

市民農園で育ったと馬鹿にされたドリームアライアンスのウェルシュナショナル優勝により、ジャンたちの忌み嫌われる谷の村は、国中に誇れるコミュニティになったのである。