人文学と法学、それとアニメーション。

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主題のロスト──『ブルーサーマル』覚書

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キラキラ大学生活に憧れる主人公が長崎から上京し、テニサー体験学習中にボールを打ち損じ、グライダーを壊したところから航空部に入ることになり、そこの一年生エースになり…というお話。

 
アニメーションにおいて、必ずしも主題は重要ではない。それは──たとえ蓮實重彦の目から見ればアニメーションには「ショット」がないとしても──なお見るべき「ショット」はあるからであり、それは主題から独立して素晴らしいものでありうるからである。
 
その意味では、ブルーサーマルを捕まえて悠然と青空を飛ぶショット、特にラストの3機同時ゴールとか、そのあたりを見ていればあるいは及第点なのかもしれない。
 
しかし、アニメーションにおいてはやはり主題もまた大事であろう。
 
その意味では、本作は、さまざまな興味深い要素がありながらもついぞまとめきれなかった印象が拭えない。都留たまきの天性の空間把握能力の話や、腹違いの姉の話、恋愛の行方、朝比奈と倉持の関係、特に倉持の母についての朝比奈な配慮のなさの不自然さなど、全く深められることなく流された数々の設定がただ不協和音のみを残した印象である。