人文学と法学、それとアニメーション。

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それが正しいことならば──『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』評註

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1. あらすじ

(1)スパイダーマンの正体がピーター・パーカーであると発覚、報道

(2)メイおばさん、MJ、ネッドらに迷惑が及ぶ。特にMJ、ネッドはピーターと同じく、騒動を理由にMITに落ちる。

(3)ピーターは魔法使いストレンジに「スパイダーマンの正体がピーターであると知る者の記憶を全て消す魔法」を行うよう頼む。しかしその呪文の詠唱中にパーカーがMJらの記憶は残すよう追加注文をつけたために魔術は失敗。ストレンジの示唆によりピーターはMIT副学長へ懇願を行うことにする。

(4)高速道路で渋滞につかまっていたMIT副学長に会ったピーターであったが、オクタヴィアス(ドクター・オクトパス)及びオズボーン(グリーンゴブリン)の襲撃を受ける。オクタヴィアスに勝利した直後、ストレンジの魔法でピーターはストレンジの地下室に戻され、彼らは魔法の失敗により別の宇宙から「スパイダーマンの正体を知る者」として引き寄せられた者だと知らされ、ピーターとストレンジは彼らの回収と送還に乗り出すのであった。

(5)MJとネッドの協力により、既にストレンジに捕らえられていたコナーズ(リザードマン)、オクタヴィアスを皮切りに、ディロン(エレクトロ)、マルコ(サンドマン)を捕らえるピーター。

(6)オズボーンは二重人格のようであり、普通の人格の状態でメイおばさんの相談所に訪れる。メイから連絡を受けたピーターは、直ちに送り返すことを主張するが、メイは彼らの治療を主張する。「彼らを送り返したいのは、自分の利益のため?」

(7)ストレンジの地下室で、いよいよ全員を送り返す段になり、彼らの相互関係や記憶から、元の世界では彼らは(しかもスパイダーマン絡みで)既に死んでいることが判明する。ストレンジは「マルチバース全体からすれば些細なことにすぎない」「もとよりそれが彼らの運命だ」と主張し呪文が封じ込められた箱を起動しようとするが、メイおばさんの言葉を受けた悩みながらもピーターが阻止。MJは「(送り返すのは、あなたらしくないもの」と告げる。

(8)ストレンジの支配するミラー世界でピーターと激突。ぶっちゃけここの映像だけでも映画館で見る価値がある。笑 そして数学の力でストレンジに勝利し、箱と魔法発動が可能になる指輪をストレンジから奪い、ストレンジをミラー世界に閉じ込める。

(9)メイとピーターは異世界から来た5人をハッピーのコンドミニアムで高性能マシンを使い治療することにする。最初のオクタヴィアスに対する治療は成功し、オクタヴィアスがタコの機械に乗っ取られ、脳内で声が聞こえていた状態が解消され、オクタヴィアスはメイとピーターに感謝を述べる。

(10)しかし次に治療しようとしたオズボーンに二重人格入れ替わりが生じ、また治療に反対していたディロン、マルコも力を行使。結局、メイがオズボーンに殺されてしまう。死に際に、メイは後悔を述べるピーターに「あなたは正しいことをした。親愛なる隣人であることを続けて。」と告げる。

(11)箱を預かっていたMJとネッドは、ニュースを聞きボタンを押そうとするが、その際ストレンジの指輪をつけたネッドが偶然にも魔法を発動。「ピーターに会いたい」という願いどおりピーターのところに空間をつなぐが、それはなんと他の宇宙から迷い込んできた別のピーターだった!便宜上ピーター2、ピーター3と呼ぶが、ともあれ彼らと合流し、ピーター1の居るであろう学校屋上に向かう。

(12)果たしてピーターは屋上にひとりで居り、MJ、ネッドと抱き合い、そしてピーター2.3と出会う。しかしピーター1はメイの死を告げ、ピーター2.3を未治療の敵5人と共に送り返すことを告げる。それを受けたピーター2.3が、自分たちもそれぞれ元の世界でMJ(に相当する存在)やベンを自分のせいで死なせてしまったことや、犯人を死に追い込み後悔していることを聞く。そしてピーター1.2.3は全て別の人からであるが、「大いなる力には、大いなる責任が伴う」という言葉を授かっていた。これを頼りに、3人のピーターは、5人の治療プロジェクトを継続することにする。

(13)報道を利用し(マーベルの盾を設置中の)自由の女神工事現場に5人を誘き寄せ治療をすることにする。ここも画面が圧巻。笑 オクタヴィアスの協力もあり、オズボーン以外は治療ができ、ラストのオズボーンとピーター1が殴り合いのバトルとなる。圧倒的優位となったピーター1がオズボーンを一方的に殴りつけ、とどめを刺そうとしたところでピーター3が間に入り押さえる。オズボーンに背中を見せたピーター3をオズボーンが刺したものの、ピーター2から治療薬をスローイングされたピーター1がオズボーンに治療薬を注射。オズボーンの悪い人格は消えて治療が完了する。

(14)オズボーンの妨害によりストレンジの魔術が暴走、マルチバースの扉が全て開き、あらゆる世界からピーターを知る者がこの世界に結集しつつあった。この世界の崩壊を止めるために、全ての人に対してピーター・パーカーを忘れる魔法をかけるようストレンジに懇願するピーター。ストレンジもそれしかないと理解し、ピーター2.3やMJ、ネッドとの別れを済ます時間だけは稼ぎ、忘却魔法を発動する。これにより、この世界は守られた。

(15)MJのバイト先に行ったピーター。なんと奥のカウンターにはオズボーンが。そしてネッドと楽しげに話すMJ。やはりみなピーターのことは覚えていないようである。(が、MJだけは記憶が微妙にある…?ちょっと初見ではわからなかったが、おそらくないとは思う)。

(16)メイおばさんの墓参りに行くピーター。ハッピーが現れ、「あなたはどこで故人に?」と。「スパイダーマンを通して」。「彼女はもういなくなってしまった」と呟くハッピーに、ピーターは「いいえ。彼女の意思は、彼女が助けた彼女の遺志を継ぐものたちにより果たされます。」と。ハッピーでなくても泣いてしまうだろう。

(17)ピーターは誰もいなくなったメイおばさんのアパートを新しく借り、以前と同じようにスパイダーマンの活動を始めた。「親愛なる隣人」として。動きは軽快である。

 

2. 評註

本作の主題は、(おそらくこれまでも主題であったのだろう──もっとも、私はこれまでのスパイダーマンシリーズを見ていないがためになんとも言えないのであるが)「親愛なる隣人」を究極の状況でもなお貫けるか?ということにあったように思う。そして、結論から言えば、ピーターは(MJやネッド、ピーター2人の協力により)貫いた。

 

まず第一には、5人は他の世界線の敵、しかも既にそちらの世界で死んでいる敵であり、別に助ける必要はないように思われる。

 

第二には、助けることがマルチバースの歪みになる危険もある。

 

第三には、オクタヴィアス以外の4人は助けようとしたメイおばさんとピーターを裏切った上、オズボーンは(裏人格とはいえ)メイおばさんを殺している。

 

以上のように、およそ助ける必要がない5人(4人)であるし、またむしろさらに進んで助けるべきでないようにも思う(送り返す前にこの世界で死刑にすべきなのでは?)。

 

しかし、メイおばさんは「親愛なる隣人」という信条に従い、5人を治療しようとし、その信念はオズボーンに攻撃され自身が死ぬ間際であっても揺らがなかった。

 

もっとも、ピーターはオズボーンを報復で殺したくてぐらつく。メイの仇なのだから当たり前である。しかし、ピーター3に力ずくで止められ、またピーター2の支えもあり、結局オズボーンを治療する。

 

そう、それが正しいこと(普遍格律に沿うこと)ならば、そうしなければならないのである。

 

そして、それは肉親やパートナーや友人が殺されたからといって、捨てていいものでも、また捨てられるものでもないのである。

 

また、オクタヴィアス博士がまさにそうだったように、そしてメイの墓前でハッピーにピーターが告げたように、メイの遺志(意思)は、メイが助けた人たちによって、そして今や完全にピーターの意思・信条にもなった「親愛なる隣人」としてピーターが行為し続けることにより、生き続けるのである。

 

これは画面の外、つまりフィクションの外にいる私たち一人一人にもあてはまる。

 

まさに「正義」が冷笑の的になり、こき下ろされる世の中たる今このとき(2022年1月の日本と、あるいはアメリカと)に一本ビシッとintegrityの筋を通してくれる作品であった。

 

3. 余談

(1)ラストのアンサングヒーローのくだりはさすがに詰め込みすぎでは…と思う。

(2)敵5人の抱える「問題」を「犯罪」ではなく「治療」可能なものとして描いた選択は問題なしとしないが、さしあたり芹沢一也『〈法〉から解放される権力』(新曜社、2001)を参考に挙げるにとどめる。

 

※2022年1月14日、繊細な取扱いが必要であるのにそれが不適切であったと判断したため記事中のリンク部分を削除した。