人文学と法学、それとアニメーション。

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王道とプラスアルファ──『DEEMO サクラノオト -あなたの奏でた音が、今も響く-』覚書

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ピアノがある上の空いた塔のような空間に落ちてきた少女・アリス。ディーモと呼ばれる黒い大人の人影のような存在者がアリスをキャッチする。寝て起きたアリスは、ねこのぬいぐるみ「ミライ」、くるみ割り人形の「くるみ割り」、妖精の「においぶくろ」たちに助けられながら、アリスがディーモとともに奏でるピアノによって成長する芽を育て、塔上部からの脱出を図る。これは、おそらく心象世界である。
 
他方、現実世界のアリスは他人が苦手で孤立した音楽学校の転入生。しかし隣のクラスのお節介やきのソーニャとロザレアが積極的に話しかけ、やがて3人は友人となる。
 

本作は89分と短い長さながら、過去の大切な人の死というトラウマを心象世界でのミステリーにズラし、それを解くことでまた乗り越えるまという「王道」の作品であるが、他方でショックのあまり自分がすっかり記憶から消しさっていたハンスの死を受容する=心象世界から脱出するにあたり、「向き合うのが、怖かったんです……でも今は、なんでも相談できる友達がいます」と現実世界のアリスに明言させ、これによりハンスと、さらには幼い自分自身(ソニア)と訣別できる、という新しい要素が入ってもいる。

 
またこの手の作品は、どうしても感情移入に必要な尺が足りず、残念な結果になりがちであるところそうなっていない点も見逃せない。ハンスが買ってきてくれた「みらい」「くるみわり」「においぶくろ」が心象世界でアリスにしっかりと寄り添っており、それはまた同時にかつてハンスがアリスに注いだ愛情そのものが、間接的に伝達されるからであろう。
 
かくして、「これから先は君次第だ」と先生に告げられたアリスの答えは、兄ハンスと同じように、ピアニストとして生きること、そしてそこで「はじまりのうた」を演奏することであった。「はじまり」を映画そのものの「終わり」にもってきて、映画そのもののエンディングにつなげているのも、アリスの過去との対決、訣別と成長を描くという主題に合致している。
 
非常に完成度の高い作品であった。
 
キャラクターデザインがめばち氏であることと主題歌=エンディングが梶浦由記氏であることも見逃せない。